loading

【コメント集】 私とtrippen

藤田貴大さん

藤田貴大さん

──trippenってどんな靴?

すぐそこに在って、疲れたときは寄りかかることができる、または気持ちを切り替えてくれる。まるで夜の眠りと、やがて朝が訪れるその連続のような。

──trippenとのおもいで

ある朝、目が覚めて、ふいに原宿店に行こうとおもい立って、向かった。町をすり抜け、寄り道せずに、一直線に。店員さんと話しながら、赤い煉瓦のうえ。あれもこれも履いてみて、一足だけ選んだ。そのまま履いて、また町へ出た。なにか食べることを忘れていたことに気づくけど、靴を摂取し、満足していたから、どうでもよかった。アスファルトから伝わってくる、あたらしいソールの感触。帰宅して、黙々と部屋を片づけたあと、どういうわけか、その夜は眠れなくて。ひとりで飲みに出かけた。もちろん、昼間に選んだ靴を履いて。バーにて、ときどき目を地面に落としては、靴を眺めて、にやにやする。空が白んできて、まもなく夜が明けるという時間に「いいや、このまま空港へ行っちゃおう」というふうな気持ちになって、ろくに準備ができていない鞄を肩にぶら下げて、始発に乗った。いちど帰ろうとおもっていたけれど、そのまま空港へ。飛行機に搭乗して、座席に腰を下ろす。靴に目をやって、革はどうやって自分の足に馴染んでいくだろうと、想像する。小さな窓の連なりが、かつての代官山店の、埋めこまれた棚をおもい出す。靴が、ほんとうにきれいだった。あのお店で過ごした時間を、飛行機に乗るたんびにおもうのだった。着陸すると、見知らぬ土地。おもえばいつも、trippenを履いて踏みしめている。あたらしいどこかで、だれかと出会うときは。

藤田貴大さん

──これからどんなtrippenを履きたいですか?

足と足が運ばれていく動作と、その余韻を捉えた建築を、いつも期待しています。また"あたらしい"に出会ってしまったら驚くのだとおもいますが、いつかの懐かしさに再会したいような気もします。

藤田貴大さん
藤田貴大さん
撮影:井上佐由紀

藤田貴大 / 演劇作家

1985年4月生まれ、北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007年に「マームとジプシー」を旗揚げ、以降全作品の作・演出を担当する。作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す“リフレイン”の手法で注目を集め、2011年6~8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、さまざまな分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、演劇経験を問わずさまざまな年代との創作にも意欲的に取り組む。2013年、2015年に太平洋戦争末期の沖縄戦に動員された少女達に着想を得て創作された今日マチ子の漫画『cocoon』を舞台化。同作で2016年第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞、今年は7月-9月にかけて、7年ぶりのツアーを実施した。演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表等活動は多岐に渡る。

マームとジプシー / mum-gypsy.com